大阪教育大学の中尾健次さんによる『映画で学ぶ被差別の歴史』(解放出版社、2006年)という本が1年近く前に出版されています。

■解放出版社
http://www.kaihou-s.com/book_data06/4-7592-4044-6.htm

扱われている映画は時代順に配置されています。

・中世――「もののけ姫」
・近世――「侠客春雨傘」「鞍馬天狗・角兵衛獅子」「赤ひげ」
・近代――「破戒」「無法松の一生」「王将」「橋のない川」(東陽一監督作品)「橋のない川」(今井正監督作品第一部・第二部)
・現代――「にあんちゃん」「人間みな兄弟」「男はつらいよ」 (コラム「部落」「荊の道」)

非常に勉強になったというのが第一の感想です。原作のあるものに関してはそれとの比較を詳細に行い、また、芸能や職業を描いている作品の微細な部分に入り込み、注目すべきシーンなど著者の思い入れも交えながら解説してくれるのは非常に親切で助かりました。

ところで、戦後日本映画が差別を描くことそれ自体がどのような意味を持っているのか。部落差別のなかに入り混じる女性差別(「赤ひげ」)や朝鮮人差別(「にあんちゃん」)に対する照射が弱く、「王将」で三吉を演じた三國連太郎を、映画における俳優の位置という視点から論じてみることもないので、少々物足りなさが残る著作となりました。

「教材」という視点と少々型にはまった反差別の姿勢を評価しすぎる嫌いを感じたところです。また、私自身の関心にひきつけていえばヤクザ映画がほとんど言及されていないのは至極残念です。ただ、「侠客春雨傘」は大変興味深く、記述には一定の不満が残りますが、未見の映画ですので、早急に確認したいところです。

また、映倫の問題にも触れられず、部落解放運動が上映阻止運動をしてきたことの意味も問われずじまい。これでは、入門書の類とはいえ、「留保」が多すぎるような気も…・・・。



以下は、他の出版社などの関連サイトです。

紀伊国屋書店

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やはり、「差別の映画社会学」というべき作業が求められているのかもしれません。

(Y)